研究所うんなんは、総勢22名のさまざまなご専門を持つ運営委員の皆様によって支えられています。
このたび運営委員の皆様にエッセイを執筆していただくことになりました。テーマは「当研究所との関わりやご専門の立場から市民の皆さんに伝えたいことなど」です。
第7回目は島根大学名誉教授 塩飽邦憲氏によりご執筆いただきました。
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「農業と介護予防」
塩飽邦憲
島根大学名誉教授
農業による疾病
これまで、農業は健康に悪いイメージでした。農業労働による慢性の疲労、農村・農家の非衛生条件(寒冷、低栄養、寄生虫感染など)、農村での封建的な人間関係などによる健康障害は農夫症と呼ばれ、早老、慢性疾患につながっていました。農業従事者に、農機具災害や膝や腰などの骨運動器疾患が多いのも事実です。
農業による介護予防効果
雲南市民にもご協力頂いた日本農村医学会・介護予防コホート研究で、和歌山県の農村地域に住む 65~80歳の要介護未認定者1,009人 (平均年齢72歳、男性44%) を対象に5年間の追跡調査を行い、生活習慣、要介護認定、虚弱性、健康状態と農業を含む就労状況の関係を、職業 (農業またはその他) または 農作業従事の頻度 (なし、150日未満または 150日/年) に分けて解析しました。
和歌山県では参加者の約35%が農業を職業とし、78%が農作業に従事していました。5年間で85人の参加者が要介護認定を受け、39人が死亡しました。生存率は、職業や農作業従事の頻度によって差はありませんでしたが、要介護認定の確率は農業従事した参加者のほうが低くなっていました。また、農作業に従事した参加者は、身体活動が活発で、産業およびコミュニティ組織や関連イベントへの参加率が高率でした。これらの結果は、農作業に従事することで身体的および社会的に活動的なライフスタイルが促進され、介護予防に役立つことを示しています。雲南市を含む全参加者の解析はこれからですが、農作業は、介護予防に役立つことが確かめられつつあります。
高齢社会と農業
全国で高齢化が急速に進行していますが、都会の定年退職者の多くは、ボランティアや趣味の活動は活発ですが、社会との絆は希薄で、就労もままなりません。地方では、農地を保有する高齢者は多く、農業の主要な担い手となっています。地方都市では趣味としての野菜や花作りが盛んになっています。農業は植物の成長や道の駅などでの直売による収入が生きがいを生み出しています。農機具事故、熱中症、膝や腰への過重な負荷に気をつけながら農業を担って頂きたいと考えています。
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