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【連載】【最終回】しまねの国保連載第60回 ​つながりと身体活動編「今あるつながりを大切に」

 みなさんこんにちは。雲南市の北湯口です。

 2014年度からの10年間、身近な読者からの「見てるよ」の声や、編集担当者からの「来年度もお願いします」の連絡を励みに、なんとかコーナーを継続することができました。最初は1、2年くらいで終わるのかなと思っていましたが、(果たして何がよかったのか)継続のお声がけをいただけたことを有難く思っています。過去のテーマや内容を振り返ってみると、その時々の社会情勢や自身の出来事までさまざま思い返され、いろんな感情が湧き出て自分でも驚きました。こうして続けられたのも、根気よく原稿提出を待ち、いつも温かくサポートしてくださった事業課保険者支援係の歴代編集担当者みなさまのお陰です。本当にありがとうございました。歴史ある機関誌「しまねの国保」の充実に微力ながら10年携わらせていただけたことは貴重な経験であり、誇りです。これを糧に、これからもさまざまなところで「身体活動のコツ」を伝え続けていきたいと思います。

 さて、最終回は、今年度のテーマ「つながりと身体活動」の総括です。

 それではよろしくお願いいたします!


今あるつながりを大切に


 これまで紹介してきたように、何気ない人とのつながりや日頃の付き合いが、実は私たち

の健康を左右する重要な役割を果たしていることがわかってきました。いきいきと元気に

活動しながら暮らしていくためには、社会的なつながりを適度に保っていく必要があります。ただ、私たちが暮らす中山間地域は、過疎・高齢化により人とつながる機会やその場所が急激に減っており、社会的なつながりを保ち続けることが難しくなってきています。ゆえ

に、中山間地域での健康づくりでは、今ある身近なつながりを大切に生かしていくための

仕組みや環境づくりがより強く求められる、と言えます。


住民力(つながり)を生かした健康づくりの効果


 雲南市では、「地域運動指導員」と称する、地域の健康づくりのけん引役となるボラン

ティアの育成に長年取り組んできました。この取組は、市合併前の平成7年、過疎・高齢化が進んでいた旧飯石郡吉田村(人口2668名、高齢化率26.0 %)ではじまり、当時の村の

保健師や福祉施設の関係者、そして地域住民が知恵を出し合うなかでたどり着いた「健康

づくりを住民同士で支え合う」ための村独自の仕組みです。具体的には、大学や医療機関の

専門家から安全で効果的な運動実践に関する指導方法の研修を受けた地域住民が地域運動

指導員となり、その研修内容に基づくプログラムが村の保健師らの監修のもとで作成され、温水プールとトレーニングルームを有する村の高齢者福祉施設「ケアポートよしだ」で地域住民に提供される、というものでした。この取組には吉田村の65歳以上の全村民の約1╱3が

10年以上にわたって継続参加し、移動能力やバランス能力の維持、生きがいづくりや交流の促進、転倒発生率の抑制がみられた上に、未参加の住民と比べて要介護状態が予防されるという成果が得られています(図)1 、2。地域住民に身近な地域運動指導員が、共に健康づくりに取り組むけん引役・パートナーとなることで、安心して楽しく参加を継続した住民も多く、まさに社会的なつながりとしての住民力を生かした効果的な事例と言えます。



身体活動はつながりを生かすことで促進できる


 この成果を受けて、市合併後は、社会的なつながりを通じた身体活動普及の取組を市全域

に拡大するために地域運動指導員の育成を定期的に行っており、これまでの養成者数は206

名にのぼります。市民に身近な立場でからだを動かす楽しさと大切さを広める地域運動指導員の活動は、身体活動や健康面での効果だけではなく新たな社会的つながりの創出にも貢献するものとなっています。また、2015 年度に本誌で紹介した「腰痛・ひざ痛予防の運動キャンペーン」と称する地域全体で運動実施率の向上を目指す取組では、地域運動指導員をはじめ地域住民の多様なつながりを生かした口コミ普及(ネットワーク介入3)を強化したことにより、世界で初めて、地域全体に向けた運動普及によって地域の運動実施率を高めることにも成功しています 4。この取組は米国政府身体活動ガイドライン最新版(2018年)でも身体活動促進の好事例として掲載されており、社会的つながりを生かしたアプローチに対する注目とそのための実効性のある取組の重要性は国内外で高まっています。


求められる、実効性のある取組


 現在のわが国の健康づくり政策(健康日本21など)でも、国民の健康づくりのために改善すべき社会環境の一つとして、居住地域での助け合いの強化や、住民運営による「通いの

場」の増加といった、住民主体により社会的なつながり創出の重要性が強調されています。

この4月からはじまる「健康日本21(第三次)」では、社会環境の質の向上に関する目標

として社会とのつながりの維持と向上を図る必要性が明示され、具体的には「地域の人々

とのつながりが強いと思う者の増加」と「社会活動を行っている者の増加」を2035年度

までに達成することを目指すとしています。これからは健康分野における社会的なつながり

創出のための実効性のある取組がより一層求められていきます。


社会的つながりを育む身体活動


 さまざまな要因で社会的不安が高まる中、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題への対

応をいかに進めるのかが、喫緊の課題となっています。社会的な孤独・孤立による閉じこもりや不活発な生活を防ぐ上で、社会的つながりを生かす重要性は明らかです。しかし、社会変化の影響で失われつつある社会的つながりを、どうすれば生かしていくことができるので

しょうか。その解決に資する知見はまだまだ不足しており、さらなる実践と研究の積み上げ

が必要です。その一つの鍵は、誰も取り残さず、実効性のある身体活動促進の効果的な取組を明らかにすることにある、と考えており、雲南市では現在その実践的研究に着手しています。またいつか、その成果をお伝えする機会があることを願いながら、社会的つながりの向上と身体活動の促進に貢献する確かな知見を創出するための研究を今後も続けていきたいと思います。

 10年間、このコーナーにお付き合いいただきありがとうございました。

 最後に一言、「島根の皆さん、最近からだを動かしていますか?」


(おわり)



(参考)

1.藤谷明子,糸川浩司,関龍太郎ら.プールを活用した転倒予防教室の要介護予防効果に関する研究.島根保環研究所 2002;44:57-62.

2.Kamioka H, Ohshiro H, Mutoh Y, et al. Effects of long-term comprehensive health education on the elderly in a Japanese village:Unnan cohort study. Inter J Sports Health Sci 2008;6:60-65.

3.Valente TW. Network interventions. Science. 2012; 337: 49-53.

4.Kamada M, Kitayuguchi J, Abe T, et al. Community-wide intervention and population-level physical activity:a 5-year cluster randomized trial. Int J Epidemiol. 2018 Apr 1;47(2):642-653.

5.King AC, Whitt-Glover MC, Marquez DX, et al. Physical Activity Promotion: Highlights from the 2018 Physical ActivityGuidelines Advisory Committee Systematic Review. Med Sci Sports Exerc. 2019 Jun;51(6):1340-1353.

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